相談役コラム
5.12024
造作仕事
前回の続きを書かせていただく。
銘木在庫材の中から床柱は迷ったが、4寸の北山しぼ磨丸太を使わせてもらった。床柱が決まったら京町屋の伝統的な造りにしていくことになる。
座敷の一間床(とこ)天井は、平成29年で伐採終了した四国山奥の魚梁瀬(やなせ)赤杉の4分厚の杢目出し一枚板を張った。床壁上部の幕板は8寸の赤杉柾目板を入れ、床には掛け軸を複数掛けられるように、三副の床軸掛け金物を回り縁に仕込んでくれた。
床框は並みの鋸では切れない、水に沈む5寸厚の鉄刀木(たがやさん)、床板は古木の栃一枚板張りとした。この古木は今まで出番がなく倉庫に眠っていた代物である。裏側の
反り止め吸い付け桟を入れ替え、穴は埋木を施して削り直した。ベテラン大工の真骨頂躍如である。
天井回り縁は赤杉、竿は赤杉1寸角を猿の顔の5角形である猿頬(さるほう)に加工して落ち着いた仏間らしいしつらえになった。天井板は過去に仕入れていた、問屋倉庫に永らく眠っていた秋田杉中杢天井板の一級品で、いなご金物(いなご型した重ね合わせ金物)留めとした。
長押は良い在庫材が無く、仕入れた吉野赤杉4寸柾目板を北山絞丸太に真のまくらさばき仕口(丸み回りに3方取り付ける)とした。天井回り縁、竿と赤杉色目が合ってしっくりと仕上がった。
畳屋にスタイロ等が入っていない藁のみの床(とこ)でと注文したら、今はコンバインで稲刈りされ細きれになり、長い藁が少なくて高価になっている、との話。畳表は中国産でなく熊本産と希望すると、予算の2倍程の価格と言われた。
仏間入り口の襖片引き仕舞の垂れ壁止めを、刀刃(はっかけ)の半円型にした。桧薄板を半円型に曲げていき、型に馴染ませて固まってから取り付けた。
伝統和風住宅では格縁(ごうぶち)天井は1尺5寸角16枚組が主だが、玄関土間一坪天井は二重回り縁の1尺角格縁36枚組の天井とした。猿棒に加工した竿が一尺間隔で5
本交差させる胴付きは、面腰として36枚の杉杢目出し鏡板を市松張りにした。
猿頬竿縁の組子の噛み合わせ相欠け仕口数は、面の部分を留めに45箇所に上り、弊社としては初めての挑戦であったが、大工棟梁は神経を研ぎ澄まして加工をしてくれた。
倉庫で乾燥していた玄関式台は欅一枚厚板、欅上がり框と色柄を揃え、床板は桧1寸8分厚板を5枚並べた。玄関柱角には風情を楽しもうと、一輪挿しが飾れる小さな棚を取り
付けた。大きさや円みは思案の末、半径7寸5分の4分1円とした。
玄関腰壁は杉杢目広幅板に煤竹押さえ、玄関戸レール石は黒御影石(実はインド産)、玄関ホール天井は、1尺5寸角格縁天井で同じく猿頬に加工した竿をと3本交差させて1
6枚の杉杢目出し鏡板である。二つの格天井仕切り垂れ壁止めには、在庫の天然しぼ丸太を差し入れた。
小屋丸太組天井のLDKは屋根断熱材の下に桧無節フローリング羽目板を張り、壁丸太組上部は漆喰塗り、梁下はじゅらく壁、腰下は桧無地羽目板横張りと変化をもたせた。
LDKから続く中廊下天井は屋根裏収納はしごと、明かり取りの強化ガラス天窓を取り付け、中廊下の明かりを確保した。
一間幅の広縁勾配天井は黄色味をおびた木曽桧節付き羽目板を張り、床は白っぽい桧無節フローリングに、壁は明るい目のじゅらく塗りとした。
広縁外に物干し場として、一間幅のぬれ縁を手摺り付きで、一等桧材に防腐自然塗料のキシラデコールを塗り付けて防腐処理とし、天気の良い日にはここでバーベキューも楽しめると思う。
切り妻むくり屋根は三河産の燻し瓦、南面には一文字軒先瓦、棟は熨斗(のし)5段積みにす丸棟瓦と、やわらかい和風屋根となり、美観地区にふさわしいものになった。
アメリカの米松やロシア北欧のホワイトウッドなどの外材を使わず、国産材の桧・松の構造材、造作材は各産地の桧・杉・椹等を使い、合板やベニヤ板を使わず国産無垢材で造
る家づくりを目指したが、大壁クロス張り住宅造りと比べると、手間は4倍掛かった。
外壁断熱はウレタン発砲としたので、和室じゅらく壁下地は土の荒壁でなく、石膏ボード下地に数ミリの塗り壁仕上げとなっているのが残念である。
工事は最後の仕上げが残っているが、完成が楽しみである。
2024年1月16日