相談役コラム
10.92017
負担金で歩道がよくなる
この3月末に京都で老舗の寺町商店街の街づくり工事が完成する。完成を期して31日、商店街にある下御霊神社でのお祓いと、市長や議員を招いて祝賀会が盛大に行われる。この寺町通りは車道幅員8㍍と両側歩道3.3㍍に商店と仕舞屋という商売をしていない住宅が、北は丸太町通りから二条まで南北に四百㍍、件数にして133軒の商店街で、私の会社はそのまんなかに位置している。現在、工事は真っ最中で街路樹の銀杏も葉を落としてトラックが行き交う埃っぽい状態が今暫くつづくのである。
下御霊神社は上御霊神社と共に京都御所の守り神として永い歴史のある神社だが、今回の工事には、応分のご負担をお願いしている。普通、神社には氏子として寄進をするのが当たり前なのだが、今回は下御霊さんにも均等割り額と、長い土塀を寺町通に持っているために間口割り額の負担金をお願いしている。
寺町通りにはもう一つの神社仏閣である天台宗、革堂行願寺が下御霊神社の南にある。境内に木蓮の大木が春になると大きな白い花を咲かす西国十九番札所であって、観光寺院としての性格から間口割り負担率を下御霊神社の四倍にお願いしている。
各店の負担金額を決めるのに何回かの会議を開いた、大正の頃からの商店街でもあり、過去の先例や他の商店街の事例を聞いたが按分はなかなか決まらなかった。もっとも公平な負担割合を作るのに結局、私にそのお鉢が回ってきた。商店街といっても組合加入商店、非加入商店、居住のみの仕舞屋、露地、ガレージ、倉庫、空き地、マンション、雑居ビル、地上げ地、社寺などとあり、さらに所有形態でいえば持ち家、借家、借地、テナント、所有者不明(地上げ地)と複雑な関係になっている。商店街組合事業である以上、商店街組合員が最も利益を受ける訳であるが、雑居ビルのテナントで商売をしている組合員の家主は他府県の人で、そのビルには商店街組合に入っていない商店もあるという具合で何から手をつけていけばよいのか、大変な作業を仰せつかった。
歩道及び街路灯の事業費は75㌫を国、府、市から出資。地元負担金の25㌫をどのように不平不満の出ないように割り振るかである。負担割り振りの糸口は複雑に絡み合った三次方程式の現状認識にかかっていると、2500分の一の都市計画地図を計測することから始め、商店街会員の負担率を100㌫とし、仕舞屋をその五分の一としてその他の形態に負担率を受益応じて割り振り、133軒の均等割りは一律三万円とする骨組みのもと、意を決して、電卓とワープロを駆使し、割り振り額を仕上げたのは、朝の7時すぎであった。間口の大きな大店では、100万円を超え、平均は30万円弱の各店の負担金になったが、実はこれからが大変な試練に遭うのである。
街づくり委員会はこの試算をもとに説明会を開いたが、発言をされる人は提案者の意向には反対の方々しかないということを知るのである。また古い寺町の人々は集会のあと辻々で勝手なことを言い合うのである。私のもとにさまざまな苦言が寄せられてくる。店子は家主が払うべきだ、家主は商売している店子が全部払えばいい、煙草しか売っていないのだから負けてほしい、この際店を仕舞う、商店街会員を退会する、一回で払うから負けてくれ、なかには借地借家紛争に巻き込まれたり、大変な目にあった。
中国産の厚さ6㌢の大判御影石張り歩道がだんだんと姿を現わし、道行く人も喜んでおられるようで……。頑固な数軒を残して峠は越したところ。
このあと寺町に似合う句碑が建てられ、工事は完了を迎える。
《通い路は二条寺町夕詠め》井原西鶴 作
訳=恋の通い路に当たる二条寺町の夕景色は、絵双紙屋などがあって趣がある。
1999年7月発行 飛翔第40号より