相談役コラム
8.202018
空き家の流通活用
市の委託で空き家相談員を5年間やってきた。京都の空き家率は14%、11万戸をこえて久しい。一向に改善しない個々の空き家が抱える深刻な問題と制度上の欠陥が見えてきた。
かつて依頼が来た伏見区の空き家を、有効活用できた案件の解決には10年かかった。
幹線道路添いに自宅とガレージを所有されていた夫の死亡後、子のなかった90才をこえる妻の世話をしている親族からの相談で、遺言書を公証人役場で作ることになり、私が立会人になったのは今から13年前のことである。90代後半に施設に入られ住まいは空き家となった。施設で103歳で亡くなられたのだか、今年3月に3回忌がおこなわれて、相続人二人から空き家とガレージを売却する依頼をいただいた。さっそく売り出すと、買い手が早々と決まり、更地渡しとなった。空き家には家財がそのまま残っており、遺品の整理と残家財の処分後、解体をして、買主の有効活用に提供できた。
この例は、相続人がまとまっていたから早期活用にいたったが、それでも空き家期間が10年である。最近の傾向は、人生の終の住み家に介護施設を利用されることが多く、施設入居中は家財はそのままで空き家となるケースが多いのである。
次の例は、後見人からの依頼で見にいった住宅である。10年近く空き家であったが、所有者には子供もなく、懇意にしている親族もおられないとの事で、入居している施設費用が底をつき自宅空き家を換金したいとの依頼であった。駅に近い現地を訪れると家財はそのままで、家の一部が崩れかけていた。ご近所の方が崩れかけた屋根の一部の瓦や樋を片付けているとのことで、危険だから何とかしてほしいと云われた。解体して更地にする費用が必要なので弊社で買い取り後、 更地にして2階建住宅を新築し売り出すと、若いご夫婦が購入されて、ご近所から安全で明るくなった、と喜ばれた。
また次の例は、隣が空き家なので購入したいとの依頼にこたえた案件である。登記簿を見ると、先代ふたりの共有物件と思われる相続未登記物件であった。この物件は所有者が死亡しているのかどうかもわからず、ご近所の方の話で時々お子さんがこられているとの事で、何とか連絡が取れ売却の話をしたが、共有者の一人が施設に入っておられ今すぐには売却できないとの事であった。
数年後、その方が亡くなり三回忌を迎えられ、いよいよ売却の交渉に入って購入出来たのは、依頼を受けてから10年近くたっていた。
この様な事例は、年月がかかっても空き家が解消し流通活用したケースであるが、弊社が今まで対応してきた空き家相談の多くは、今だに有効活用されていないのが現実である。
空き家の流通活用を阻害している要因は様々あるが、社会の無駄の最たる物が空き家であるといえる。空き家は景観の悪化を招くだけでなく、老朽化による倒壊の恐れ、治安の悪化、町の衰退などさまざまな問題を抱えている。空き家物件にも多くの公共サービスが提供されており、無住物件が4軒に1軒ある東山区の大原学区は社会問題となっていたが、最近はそのような空き家が民泊に活用されている。しかし、旅人は住民ではないので地域の真の活性化といえるかどうか。
空き家の多くは居住用物件として固定資産税が本則の1/6近くに減額されており、たいした負担にならないなら賃貸に出して面倒なことをしたくない、更地にしたら固定資産税が6倍近くになり、草引きもしなければならない、と放置されているのである。せめて住んでいない家屋には適正な調査をして固定資産税の本則を適用すべきである。
また、日本の登記制度では相続が発生しても所有権移転登記をしなくても罰則がない。そのような相続未登記物件が日本全体で九州の大きさ程あるといわれている。相続登記に罰則がないので真の所有者が判らず流通をさまたげる原因になっている。相続税の申告期限は10ヵ月となっているのだから、相続発生から相続税の申告期限と同様に相続登記の申請手続きも10ヵ月期限を設けてみてはどうだろうか。
2018年7月20日