不動産部
7.152019
不動産部のよもやま話 Vol.05 【営業安田 身辺雑記】
ある日のこと。
中学三年になる息子が、「あ~ぁ 空から3万円が降ってきたらいいのになぁ‥」と言う。
理由を問うと、欲しいマンガがあるらしい。
マンガって3万もするか?と思いつつ、
「お父さんが子供の頃は、自販機の下を覗いて、よく100円ゲットしたもんや」としょうもない事を口走ってしまう。
「そんなん当たり前のことやん。自販機があれば、片っ端から見てるわ。もちろん、釣銭の取り忘れも見てるで!」と息子。
さらに上をいく想定外の返答に「近所では、せんといてくれよ『あれ 安田はんとこの子やでぇ…』なんて言われたら かなわんしな」と忠告したところで、家内の刺すような視線を感じ、そそくさとその場を離れ危険を回避。
話は変わる。
私の職歴は、某製薬会社のMRとして5年、その後家業の畳屋で約24年経過、そして人見建設に勤務して3年半が経過した。
製薬会社勤務時代は、パソコンの普及率はまだまだ低く、社内の資料は手書きが当たり前。
所属していた名古屋支店の全体会議でのこと。
定規すら使わずにフリーハンドで売上グラフを作成。OHPで映写し営業活動報告をしたところ、さすがに出席者からの失笑と上司からの一喝をいただいたことを覚えている。
家業に戻ってからは、徐々にパソコンが一般的なものになっていく。
時代に遅れまいと、親父から事業を承継するタイミングで、顧客管理や証憑書類の発行についてはパソコンを頼ることに。
とは言え、長文を打ち込むことは稀で、顧客の名前や住所、あとは数字の入力が殆ど。人差し指と中指、両手で合わせて4本の指でのタイピングで全く不自由を感じたことがなかった。
そして46歳にして人見建設の仲間入り。
不動産営業として勤務することとなり、やたらとパソコンをいらうことに。
私は、キーボードを見ながらの4本指。おまけに近眼と老眼が併発。
手元の書類は近眼メガネを外さないと見えないし、画面を見るにはメガネが要る。
結局は、メガネを上げたり下げたりしながら、キーボードを見ながら打ち込んでは、画面を見て、打ち間違いに気づき打ち直す…の繰り返し。
「三歩進んで二歩さがる♪」
まるで水前寺清子の昭和歌謡曲「三百六十五歩のマーチ」のよう。
スーツにネクタイはしているものの、なんとも無様な営業マンである。
周りを見渡してみる。
「カチャカチャ」「パチパチ」画面だけを見ながら恐ろしい速さでタイピングしている不動産部石原部長や総務部の人たち。
皆、シュッとした感じで、とても涼しげに打ち込みをしている。
自身の不甲斐なさと焦燥感を強く感じたが、
1982年式骨董品ワードプロセッサーを「かな文字入力」で、ぱちぱちと操る人見明会長の凛としたお姿が、唯一の精神安定剤となり、折れそうになる私の心を癒してくださった。
しかし、まだまだ現役とは言えご尊老の会長。今年の3月初旬、会長への依存症を克服すべしと4本指だけに頼ってきた私も10本指を使うと一大決心をする。
キーボードを一切見ない「ブラインドタッチ」の特訓を始める決意をしたのだ。
早速、卓越者の一人、工務部事務の楠さんに相談したところ、練習用無料タイピングゲーム「寿司打」に出会う。
ゲームの内容は至って単純。
左から右へ画面上をお寿司が流れていく。
そのお寿司が画面から消えて無くなるまでの間に、お題の「単語」や「短文」をタイピングするとそのお寿司を獲得出来るという仕組み。
最初は楠さんオススメの「練習3,000円コース」から始めてみた。
最下級コースの為、打ち込む文字数も少なく、お寿司の流れるスピードもかなりスロー。
しかし、実際にやってみると400円か500円程度しか食べられない…。
3,000円支払って500円では、2,500円も損をしたことになる。
毎回ゲーム終了時には損した額が画面上に表示されるシステムになっている。全くご親切なゲームである。
一大決心をしてからは、始業時間までの早朝の時間を使い、出来るだけ毎朝特訓するようにした。しかし、やる度に2,500円程度の損が続く。
架空の支払いとは言え、始業時間にはなんと20万円程のコスト割れの毎日。
日々大損をしているうちに、特訓開始から1週間程で胃痛がするようになる。
会社の置き薬の世話なっていると、総務部の小倉さんや小林さんから「どうしたの?大丈夫?」と優しいお言葉を掛けていただくが、事情を説明すると「えっ??」と苦笑い。
でも、本当に痛いから仕方がない。
その後、2週間3週間と痛みと闘いながらも継続する。
すると、牛の歩みの様ではありながらも、食べられるお寿司の数は少しずつ少しずつ増えていく。成長がみられる間は、一時の達成感で癒される。
しかし、案の定、大きな壁にぶち当たる時期が来る。
私には、どうしても2,000円の壁が破れない。1,980円が限界なのである。
苛立ちが募った私は、「寿司打」に責任転嫁したくなる。
「これが本当に一番簡単なコースなのか?」
「練習用3,000円コースをクリアできる人間がこの世に存在するのか?」
練習用タイピングゲーム「寿司打」自体にいぶかしさを持ち始め、
寒さが残る3月末の、と或る日、総務部人見康治さんに事情を話し、チャレンジしてもらう。
結果は、あっさり4,880円。
バイク通勤で悴んだ手、初めてのお寿司との対面にもかかわらず、彼は1,880円も余計に食したのである。
猛省し、邪念を振り払い、再び特訓を開始。
そして、4月1日、初めて2,000円をクリアする。
日本中が「令和」発表で沸く中、私はひとり「2,020円」に沸いた。
帰宅後、喜びを分かち合おうと息子に報告するが、「ほんまぁ‥」と気のない返事。一瞥もくれずマンガに没頭していた。
そして、特訓開始から4ヶ月が経った現在、最高記録は4080円。
お寿司は大概食べ飽きたが、過去の食べ損ない分を取り戻すべく、今も尚「寿司打」との孤独な闘いは続いている。
ところで、自動販売機の話に戻る。
インターネットを用いて「自動販売機」「下」「お金」「釣銭」といったキーワードをブラインドタッチで格好よく入力。検索してみた。
自販機の釣銭取り出し口のお金を懐に入れてしまうと、
刑法235条【窃盗罪】「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」とある。
一方、自販機下のお金を懐に入れてしまうと、これまた
刑法254条【遺失物等横領罪】「遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。」とあった。
かわいい我が息子を犯罪者にする訳にはいかない。
息子を呼び出し
「自販機の釣り銭取り出し口のお金には、絶対に手を付けるな!」
「自販機下のお金は、必ず警察に届けろ。そして、祈れ!3ヶ月のうちに落とし主が現れなければ、法的にはお前のものにできるからな。」
と父として指導をしておいた。勿論、うちのやつのいない所で。
作 :不動産部 安田