お客様の声
4.12007
第8回 我が家の新築物語
島貫 学 様 (ねっとわーく京都21 2007年4月号より)
私が住まいに向き合うことになったのは40代に入ってからであった。建築学科に学ぶ友人の影響を受けた学生時代以来、この国の公共住宅政策の充実を促すために、持ち家制度に抗って「借家住まい」でいくことを「ポリシー」としていた。幸い、長男が生まれた年に妻の職場近くに借家が見つかり、賃貸のアパートから引っ越した。家族三人にとっては十分な広さであった。
その後、2年毎の契約更新を重ね10年を過ぎたが、更なる延長が困難になり、より長期の安定した借家を探す必要に迫られた。その頃には次男も生まれ、長男は小学校の高学年となっており、子どもの生活圏のなかで探すのは相当に難しい。ここに至ってついに、ポリシーを捨て、住み慣れた借家を買い取ることになった。
2年後の阪神大震災は、築70年以上とも聞いていた棟割長屋の住まいの安全性への眼を開かせてくれた。長女も加えて家族も5人となり、兄弟の成長もあって、部屋数や広さにも不足が感じられていた。また、子どもの自立のためには高校卒業後は家から出して下宿生活をさせようと思っていたので、子ども達が人生の揺籃期の胞衣としての我が家について、共通の記憶を育むためには、今が最後の機会と判断し、97年に建て替えを行った。住み慣れた家も木材が新たな家を形作っていく心躍る過程も漏らさずビデオに収録し、題して『我が家の新築物語』を作った。
子どもはこれを観るのが大好きである。部屋数も増えたが、家族皆が集まって食べたり、喋ったり、寝そべったり、観たり居間が広くなったことが何よりの収穫であった。他方で、私はこの新築を通して、家を建てたら「不動産取得税」を課せられるというこの国の現実を見せつけられた。課税評価の係員に「納得がいかない。この不動産で利益を上げたのなら分かるが、人としての最低限の居場所の確保になぜ税金なのか。空気に課税するに等しい!」と怒りをぶつけた。この怒りは今なおたぎっている。