相談役コラム
1.182021
看板を揚げた
新型コロナ第3波目前の昨年11月25日、寺町通りに面した本社正面の瓦下屋根上に掲げた欅一枚板看板の除幕式を行なうことができた。
式は、三密をさけるために歩道上で半時間とし、全社員が参加出来るように月一回集まれる給与日に催した。
社長のあいさつは、「1918年創業の老舗100年企業認定を記念して、心新たにこの看板に恥じない仕事を今後も続けてまいり、150年、200年と永続することを誓いたい。」と力強い。銀行支店長の心のこもったお祝いのことば、制作して頂いた京都同友会代表理事のコダマ製作所社長のお話につづき、白布の紅白紐を引いてお披露目となった。
式後、同級生の和菓子屋に頼んでおいた、2寸5分の紅白饅頭を参列者とご近所にお配りした。コロナ禍で仕上げ膳も設けられない苦肉の策であった。
看板は、「人見建設株式会社」と左より横一筋に墨浮文字が大書されている。その下に「1918年創業」と記され、右端に西川白悠の落款が添えられている。
見上げると堂々とした看板に気恥ずかしい思いもするが、“看板に偽りなし”を肝に銘じて気が引き締められる想いである。
看板をつくることになったのは、歴史都市・京都にふさわしい屋外広告物普及のために、都市の美観向上をめざす看板条令が創られたことにもよる。これまでの雑多な看板に大きな規制がされ、ここ数年で見違えるような整然とした市街路にまでなったが、古都京都に相応しいデザインに優れた看板には助成を受けられる時限制度が昨年出来た事を、児玉さんより教えていただき、相談しながら進めた。
元々、旧市街地店舗は京町屋の下屋根瓦葺きの上に看板を建てることで一人前の店として認められた。改めて付近を歩いて見ると現在も十数ヶ所は残っており、歴史のある看板が多かったが、各々その意匠は違っていて趣があり大変参考になった。
看板本体は在庫している長さ6尺、幅2尺5寸、厚み2寸の耳付き欅杢厚板の中から目が通っている反りのこない一枚板を選び、ベテランの大工中野さんが裏面に反り留め加工をして削りあげた。
看板足元の両駒は燻し瓦屋根上に乗せるので、コントラストを出すために赤松4寸丸太を十字に組み、木口巻きは銅版浮き彫りで三つ輪の中に「人」の文字が入った弊社ロゴマークを入れた金文字とした。
看板文字は私の亡父の末妹で、弊社をいつも支援してくださる書道家の叔母に揮毫をお願いした。叔母には、京の老舗100年企業の京都府申請時にも、ご近所を歩いて昔の事を尋ねて頂いたりしたのに、また無理なお願いをした。
弊社初代の末っ子である叔母さんは、突然な願い出にもかかわらず行書体、楷書体、隷書体、京江戸文字や篭字と五枚も長い和紙に書いてくださった。雅号は西川白悠。卒寿が近い今でもご自宅の書道教室で20数人を教えられ、また盛大な書道展を毎年開催されている。
弊社応接間には、かつて叔母さんから頂いた双副の書画「富士の景観」を描いた大作を掲げている。清涼感を醸し出すこの作品は、お客さまを迎えた商談時に場を和ませている。
この看板が、来社される皆さんに弊社への信頼を表すものになっていくように、役職員一同今後も業務に精励し、50年100年後も弊社の行く末を見守ってくれる事を願ってやまない。
昨年7月、98才で亡くなった母に、この看板をひと目見せたかったと思う。
2021年1月18日