相談役コラム

会長コラム ~同人誌『飛翔』に投稿したコラム集~

土地の考察

「労賃、利潤、および地代を各自の所得源泉とする。単なる労働力の所有者、資本の所有者、および土地の所有者、すなわち賃労働者、資本家、および土地所有者は、資本主義的生産様式にもとづく近代社会の三大階級を形成する。」とマルクスは資本論最終章で(第52章諸階級)さらに「三大社会グループを形成する諸個人は、それぞれ、労賃、利潤、および地代によって、彼らの労働力、彼らの資本、および彼らの土地所有の運用によって生活する。」と書いている。 階級社会は労働者と資本家で形成されていると理解していたが、土地所有者を加えて三大階級を形成する、と述べている。

私の仕事は土地と深く結びついており、土地所有者が労働者と資本家に伍する階級であるとの指摘は、今までの理解を変えるものとなった。というのは弊社の顧客は、土地建物の所有によって地代、家賃からの利潤収入を得ている方が多く、労働賃金や資本利潤で所得を得ている方と伍しているからである。

土地は地球の薄皮表面であり、有史以前は誰の物でもなかった、言い換えれば所有権のない無主物であったが、占有という概念が発生した階級社会により所有物となった。原始無主物であった有限な土地は、定住農耕が始まり階級社会となって、支配者が生まれ、国家が形成され、国家のお墨付きで土地の個人所有が出来上がった。また、土地に縛り付けられた非支配階級は、土地からの果実を支配階級により分配された。

18世紀に資本主義社会が始まって、資本家が必要とした労働力を農村から駆り集めて賃労働者が発生し、二大階級社会が300年ほど続いてきたが、150年ほど前にマルクスは土地所有者を含めて三大階級と定義づけた。労働と資本の階級社会に地代収益による階級が資本主義社会を形づくっていると述べている。

では、そもそも土地はなぜ価値があるのかと考えてみると、金や石炭が産出されるような土地は土地その物が価値を持っている。耕作をして収穫出来る土地はそれなりに価値があり、住いになる土地は放牧農地よりも価値がある。果実を生まない只の土地、山奥の原野のような低利用地は、誰も買わないが、高度商業地域の土地はべらぼうな価格を形成する。要は土地に資源があるか人が居るか、居ないかで決まる。人が沢山居る東京銀座は坪単価何億円もするが、北海道の原野は値段がつかない。人が居ることで土地価格が決まっていくのが土地という代物である。

そのような収益利潤を生む土地の重要な規定は占有概念である。どこまでが所有地か解っていなければならない。土地を生業にしている弊社は、お客さまから依頼を受けて土地建物を検分する場合、事前に机上調査をする。所在地は最近は建物外観までネットでわかり、ネットで登記簿を検索し、役所調査もネットで大方出来てしまう。そうして実際現場に着いた時は、お客さまと同等程度に詳しくなっている。

土地の境界をお客さまから指し示して頂くのだが、大抵のお客さまは、判然としない場合が多く、占有概念が希薄である。売買や建築する場合の境界は非常に大切なもので、正確な境界確定が必要な場合は、飛翔編集長の田中氏にお出まし願うのである。土地家屋調査士の田中氏は毎回スムーズに解決をされているのを横目で見ていて、感心しきりである。しかし、依頼主のお客さまとは信頼関係があるが、確定する隣接地の方は初対面で難儀なことを言いに来たなと対峙される。老練な田中氏は、最初は決して決め付けないで話をよく聞き事を進めていかれるが、境界確定も最終になると、しっかりと専門家の裁量で互いの主張の着地点を示され双方の了解を取ってまとめられる。

弊社は、境界確定が完了するのを待って不動産の取引や建築工事が始まるので、毎回田中氏の仕事の進み具合が気になって、無理を言っている。

土地所有者の境界確定による占有が利潤および地代の基本であり、土地所有者の階級利益の源泉である。資本主義的生産様式にもとづく近代社会の労働による剰余価値から土地所有者の生活が成り立つとのマルクスの指摘は、土地の持つ性格を明確にし三大階級に位置付けたのも頷ける。

 

2021年10月25日

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