相談役コラム
12.12022
円安下の不動産購入
コロナ蔓延が長引く中、1ドル150円と90年バブル終焉の32年前水準になった。
貿易収支は半期で11兆円の赤字、国富が削り取られ続けているのに、黒田日銀総裁は利上げを頑固に拒んでいる。
弊社でこの前、取引した不動産案件でこの異状な円安で、思いがけず得をされたアメリカシカゴ在住夫妻の買主がおられる。
京都府北部、沓掛から京都縦貫道に乗り20分も走ると、落ち着いた里山集落があり夫妻がその田舎住宅を購入契約されたのは、コロナ発生から1年ほど経った2021年3月であった。
商談は物件詳細資料をはじめ、内外建物の映像はスマホによりリモートで行った。夫妻が住むシカゴとの時差は14時間。昼夜逆転のメール連絡のみだったのだが、物件を一度も見ずに売買契約手付金の10%が、110円レートで米国より送金された。
所有権移転の残代金90%は、物件の内覧と対面での取引が可能となるまで、コロナ収束の入国規制が解除後にと、売主も引渡し条件を考慮された。
ところが、半年、そして一年してもコロナは治まらず第4波、5波、6波と入国解除の兆しが見えない。今年の9月に日本への入国許可がやっと下りたが、それまでに航空チケットを度々キャンセルし、書類取り直しがつづいた。
延び延びとなっていた代金決済と移転登記が、2022年9月末に1ドル145円レートで米国より送金された。契約時の円ドルレートより約35円の円安でドル支払い金は日本円にして約750万円が、買主購入資金の実質値引きとなった。売主は査定価格満額の契約金額に見合う残代金であり、この円安で特段損をしたわけではなく決済期間が延び延びとなっただけである。ただ、一年半の固定資産税と植木の手入れ代金が余計な出費となった。
買主はやっと9月末にビジネスビザで来日され残代金確認後、所有権移転登記申請で初めて売主・買主がお会いになられた。買主は、文化財の修復や研究をされている州立博物館員で、定年後は終の棲家を妻が日系二世でもあり日本の古建築を住まいにしたいと、日本の友人に依頼して永い間探されていたのだった。
敷地は457坪と広く、材木商も代々商ってこられた慶応年間に建てられた四つ目建て母屋は欅の尺超えの大黒柱に、黒光りする大きな登り梁が組まれている。母屋に続く平屋建て住宅は、まだ新しく綺麗である。屋敷には漬物蔵と二階建の家財蔵がある。ほかに農事倉庫2棟など付属建物5棟延べ121坪である。母屋の道路に続く空き地には数台分の駐車スペースがあり、母屋の庭や前菜園は庭師が永年手入れをしておられ灯篭や石を配した美しい日本庭園である。燻し瓦屋根はまだ光沢があり、売主の母親が生前中に葺き替えたとお聞きした。
決済後、現地に初めて足を踏み入れたとき、永らく待たされた住宅にやっと巡り合った満足感から、思い描いていたとおりだと大変感動された。奥座敷で関係者一同喜びあい、買主はアメリカからのお土産と手作りの日本語名刺を一人ひとりに渡された。
売主は退職後、囲碁の会場として友人と過ごされたり、セカンドハウスとして使用していたから食器から布団家具などそのまま残されていた。
売主と先代の残された家財整理は、日本文化に詳しい買主夫妻が使用できるものがあればと、立合整理のもと弊社が不用品の搬出作業をした。中二階は昔の藁やむしろが山の様にあり、物凄い埃のなか積み込んだ。二つの蔵には代々の道具類や漬物樽など、見分けしながらの搬出は一週間ほどかかり、3トントラックで14台も出した。
買主は一ヵ月のビジネスビザ期限で一旦アメリカへ帰国され、シカゴの自宅処分後に、購入家屋のリフォームをされて日本永住の予定である
2022年10月24日